作品名SSワンドロ_01_聖
元ネタ東方Project
公開日
公開場所Pixiv小説にて再
頒布イベントなし
掲載誌なし

§

黒死病?

パチェが口にした言葉に、耳を疑った。

の、恐れがあります

バカな。あんなものは当の昔に……

そうか、幻想郷こちらに来た可能性があるのか。

墓地最寄の集落で奇病が。まだ被害は小さいですが、調査に出た小悪魔が確かに黒死病の特徴を捉えています

被害はその集落だけか

はい

では隔離だ。あと墓地を洗え、命令に背いて土葬をしていないか調査しろ

かしこまりました

黒死病など、もう消え失せたものだと思っていたのだが、結局悪魔とは切っても切れないというのか。

もともとあんなものは悪魔とも何の関係もない純粋な疫病だ。それが我々夜の眷属の責任にされてしまったに過ぎない、私達としても迷惑千万な話だ。もう撲滅されたと思っていたが、撲滅されたのは我々も同じで、同じようにこの地に来ていたのらしかった。

もう対応策はわかっている。封じ込めてすり潰せば、終わりだ。悪魔も、近代化するのだ。対応はパチェに一任する

かしこまりました

事実、黒死病の拡大は何人かの小悪魔が外出し、葬儀の方法を啓蒙し直してすぐに縮小を見せた。悪魔が葬儀のやり方を啓蒙するというのもおかしな話ではあるが、その辺はうまくこの世界の聖職者に化けてやってもらったようだ。その辺はパチュリーの有能さに素直に感謝しておこう。

[sectio]

おっかさんが、いない!

墓を掘り返した村人の一人が、何かを騒いでいる。

村人は悪魔の仕業だ、悪魔のまき散らした黒死病がおっかさんの体を持っていった、と何かわけのわからないことを叫んでいる。他の村人もその声を聴いて不安そうにしている。

パチュリー様

A子、何事?

は。なんでも、埋葬していたはずの肉親の亡骸が、墓地からなくなっているとか。私達が黒死病をまき散らして、侵された死体が悪魔の仲間になって出て行ったと言っているようです

墓地から死体がなくなっている?ばかげている。

死体は本当になくなっているの?風化したとか土に返ってるとか

少なくともその場にはありませんでした。土葬した死体のようで、なくなってから1年もたっていません。今回の黒死病の騒ぎで火葬し直すために墓を掘り起こしたところ、亡骸がなかったと

……ふうん。少なくともあの村からは、妹様の食料を調達なんて、していないのよね?

はい。レミリア様もフランドール様も、ここ200年は食用人間を摂取していません

知ってるわ

私が代替食料を作っているのだから。

里の人々は、こぞって墓を掘り返し始めた。人間の里はパニックになると制御が効かない。もしペスト菌が残っていたら、そんなことをするのは自殺行為に等しい。私と5人の小悪魔は衛生的な方法で確認するよう村人を制止したが、もはや止まらなかった。

だが、村人たちが掘り返した、亡骸を土葬したはずの墓には、一つも死体が残っていなかった

どういうこと?

わかりかねます。我々はこの里の葬儀まで把握しているわけではありませんし

葬儀。

この里で土葬をする場合は、あの世で着る服を着せたまま土に埋めるそうだが、その着物ごとなくなっている。これは、死体が変化して消えた、のではなく、死体がどこかに行ってしまったと考えたくなるのも納得がいく。

村人を制止して。紅魔の仕業にだけはならないよう

了解しました

私には直感があった。

それは、私が境界から魔術師として悪魔扱いされたことと関係がないでもなかった。

この村の葬儀を取り仕切っている者は

命蓮寺という寺院です。この里は、檀家制度という特殊な支配を受けています。まるで

そうね、教会

嫌な笑いが、込み上げてくる。

これだ、聖職者はいつでもこうなのだ。

きれいごとを言いながら、裏で何をやっているのか、知れたものではない。

そして、私のような弱いものに罪を被せて善人面するのだ。

張って。尻尾を掴んで頂戴

承知しました

[sectio]

御飯よ

声をかける先に、人の気配はない。あるのは、もっと獰猛で邪悪な。

がしゃん!

と金属同士が激しく接触する音が響く。鎖で、動きが制限されているのだ。

昨日死んだばかりの肉だから、新鮮なはず

ぐる、ぐるる

人の声をかけてはいるが、帰ってくるのは獣の唸り声だけ。この光景は、裕福な者が犬を飼うその光景に見えなくもないが、ここは地下深くで光も刺さない牢獄のような部屋。そして処理はしているらしいが同士でも払拭できない獣臭は、清潔さを保とうとするそういった愛玩動物の飼育とは、この部屋が全く別の性質のものであることを示していた。

部屋にやって来た「人の言葉を離すほうの存在」は、麻袋の中から何かを取り出し、織の中に放り投げる。人の、死体だった。まだ新しい。

放り込まれた先、織の中に見えるのは、喉を鳴らし涎を垂らしながら血走った眼をらんと光らせる巨大な虎の姿。首輪は鎖で繋がれ手前までは来れないようになっている。

近くに放り込まれた人の死体を、巨大な虎はまるで猫が魚を食べる様に、たやすく食いちぎって口に含み、飲み込んでいく。まだ新鮮な人の死体は、食いちぎられるたびに血液を吹き出し、松明に照らされた内臓は瑞々しく照り返す。その獣の食いっぷりに美学はない、ただ、食べたい箇所から口を付けて噛み千切って飲み下していく。脇腹、太腿、二の腕、尻。食べる順に脈絡はない。そのたびに人の死体はバラバラに千切られて無残な肉塊へと変わっていく。

ほんとうは、生きた人間を上げたいのだけれど。ごめんね

どこか憐れみを含んだような声で、人影は檻の奥へ言葉を投げる。

奇病のせいで、私達がことが、知られてしまいそう。他の里でまた宣教進むまで、もしかしたらご飯が、無いかもしれないわ。……我慢、してね

言葉に対する返答は、無い。

檻の奥にいるのは、ただの獣でしかないのだ。

檻の中に転がる人の死体は、その姿がほとんどなくなってしまった。太い体骨と頭蓋、その間ある肉と、地面を濡らす血だけだ。獣は、床を舐めてその血さえ摂取している。その獣の姿に人は、獰猛、を通り越して、邪悪ささえ感じるだろう。

念仏が、響いた。その念仏の内容は、小悪魔の私にはまったく理解できなかったが、それを唱え終わった後にもう一言、呟く。

毘沙門天の化身、捧げられる供物は新鮮な人肉でなければならない。神饌は、人肉でなければならない

どこか生気のない声で、檻の中の獣を見ながら言う、人影。それは松明の赤い光を受けて闇に浮かび上がる。それは、命蓮寺の、尼僧の姿であった。

とら

尼僧はおもむろに服を脱ぎ始めた。すっかりと脱ぎ終わり、一糸まとわぬ姿になると、その豊満な体躯がたいまつの炎に彩られて艶めかしく揺れる。そして、そのまま檻の中に入る。

自らの体を贄にする……のかとも思ったが、そんな甘いものではなかった。

尼僧は、その猛獣と、交わい始めたのだ。

松明だけが照らす薄暗く獣臭が立ち籠める地下室その中を、獣の呻き声と女の嬌声が、塗りつぶしていった。

[sectio]

なるほどね

小悪魔の報告に私は合点がいくと同時に、全く胸のすくような気分だった。

やはり、聖職者と言うものは得体が知れない。神殿の奥に押し込んである神性が、よもやただの邪悪な獣であったなどと、全く我々を悪魔扱いするには、棚に上げ過ぎ、というものだ。

ご苦労様。これはお嬢様に伝えるわ。あなたは休んで

は。では、失礼します

寺が地下に飼う邪心には、定期的に贄が必要なのだろう。人肉が神や悪魔に対する贄として最適と言うのは、どこの世界でも変わるものではないらしい。その肉を、葬儀の際に土葬にすると称してあの寺は、横領していたのだ。黒死病の発生は全くの偶然であったが、それによってあの寺の所業が明るみに出たという訳だ。

それにしても、供贄のコンセンサスが得られていないなんて、あの宗教施設もあり方がグロテスクだわ。いっそ生贄を差し出せと言う方がスマートなんじゃないかしら

そうしていたのは私達がいた世界の悪魔だったが、それは確かに早々に駆逐されてしまったのだ。後から来た方の神社の一柱も人身御供を強要していた結果放逐されたのだという。

ならば贄を隠すあのやり方も、一つの方法論なのかもしれない。

人の宗教セックスを笑うな、か

そういう意味の言葉ではなかったと記憶しているが、何ともマッチして仕方がない。

私は報告書をしたためながら、口角を上げた。そこにはいくばくかの自嘲もあったかもしれなかった。

[sectio]

パチュリーの報告は、予想の斜め上を行くものであった。

……仏教、とはそんなものであったか?

違うと思います。ただ、宗教など土地と時代でどうにでも変わるもの、そもそも神に実体などないのですから

その点では、ただの生き物である我々の方がご利益があるというものだな

現世利益とも言いますし、あるいはグリゴリのもたらした悪技とも言います。

パチュリーは控えめに言うが、何ともいい皮肉の言い方である。

あの尼僧の所業を聞いて、最初は驚いたのもであるが、だんだんに気味がよくなってくる。

くく、趣味がよすぎるではないか、あの尼は。大人しそうな顔をしておいて、だいぶ"人を食っているな"

……いかがしますか。寺を放っておけば、我々の責任にされかねません。被せられてしまえば、払拭は難しいでしょう。先に、事実を公表した方が

いいや、ここはでかい魚を選ぶぞ。人間なんて雑魚は、後でいい

私はパチュリーを諭す。

黒死病は我々悪魔の仕業だ。それでいい。死体は黒死病にかかった故地獄を歩いていたが、あの尼僧が取り戻したとでもすればよかろう。適当な骨を持たせろ。人の骨がなければ動物の骨でもいい、代わりに適当な火葬済みの死体をでっち上げて尼僧に凱旋させるのだ。先手を打たねばならん。こちらから持ち掛けなければ、意味のない材料だぞ

私が言う真意を、パチュリーはすぐにくみ取ったらしい。

いいのですか?紅魔への人間の不信は薄らいでいたというのに

はン、人間の信頼など端っから不要だ、我々には最初からなかったもの、無暗に得ようなどとは思わん。欲張れば、身を亡ぼす

人間たちの不信を買ってしまうのは、本当の正直を言えば避けたいところではあるが、この世界ではそれ以上に重要な政治がある。

民衆よりも、あっちの頭と通じておいた方が、便利だろう

……どちらが、欲張りかわかりかねます

はっはは、褒めるな

ただ、彼女は気には食わないだろう。形は違えど寺は聖職者の施設、集団。そこと通じることがいかに窮屈であるか、魔術師の彼女なら避けたくなるのも仕方がない。私だって、聖職者と言う集団がいけ好かないのには同意だ。

だが、黒死病を死滅せねばならないのと、我々が運命共同である必要はない。変わることが出来るのならば、それに過ぎたことはないだろう。運命は、変えるためにある。

行くぞ

は、いずこへ

決まっているだろう、命蓮寺だ。お前もついてこい。今日はトップ会談だから私が出向くが、これからはパチュリーが大使として繋がらねばならん。面通しだ。

……御意に

[sectio]

あの動物霊の為か。あれは神などの様には見えんがな。私の目が腐ってなければ、お前はあれを信仰などしていない。……愛欲の形を悪魔が規定するつもりなどないし、その上で言わせてもらえれば

私が言う言葉を遮るように、尼僧は言葉をはさんだ。

もはや言い逃れは致しません。告発でも、裁判でも、おかけください

この尼僧を、そこまで掻き立てるものはなんであったのか。

いや、その正体を私ももう知っていた。ただ、それがばれていないだけである。

愛情の性質は違えど、きっと同じようなものなのだろう。

フランドール

私とて、彼女の扱いを誰にどう窘められようとそれを正すつもりもないし、フランドール自身もそれを私との愛の交合だと感じている。我々の関係性を、他の誰にだってわかりはしまい。それが、この尼僧とあの獣の間にもあったというだけだ。

人々に聖人とまで言わしめた徳をして、しかし悪魔たる私と同じ所業をしたのである。愛とはこれ程に罪深いものか。

ハッ。悪魔が何故悪魔の所業を告発せねばならん。これでも500年を生きてきた狡猾程度は、持っているつもりだ。お前を裁判にかけて、我々紅魔に何の得がある

……それは、情け、ですか?

お前は見た目よりもよほど頭が悪いと見えるな。自分の首を絞めるようなことをするわけが……ああ、そうか。お前のところの言葉には確か"情けは人の為ならず"とかいう言葉があるのだったな。そういう意味で言っているのであれば、その通りだ。お互いいい関係を築きたいものじゃあないか、お前のところの正義は十字架を掲げないのだ、我々が牙をむく相手ではない

私がそういうと、尼僧は無言で膝を折って手を付き、額を地面に当てる。

やめぬか。五体投地を捧げられるような身じゃあない。立て。お前も既に普通の人の身ではなかろう。ならば立って歩け。獣や草を食って生きていける人間とは一線を画したという自覚があるのなら、ここで泣いているのはただの愚か者だ。サトリとかいう境地を目指す者が、こんなところで躓いては仕方がないだろう。立って、歩け。

新しく来た神社とは良好な関係を築けそうになかったが、こっちの寺は、博麗よりもいいパートナーになりそうだ。